活動記録

楽音のOB・OGサークル「楽音next」のブログです.

Un Homme Et Une Femme

 イカスミスパゲティが無性に食べたくなり、近くのスパゲティ店に行った。ここに来るのはたぶん二回目だと思う。店頭のメニューにイカスミがあったので喜んで店内に入ったが、ランチメニューにはイカスミは無いようだ。今更引き返す訳にもいかずそこで昼食を食べる。それなりに良い店を意識したような店内で、居心地はよく、お客さんも多く繁盛している模様だ。

 しかしここのスタッフ、絶妙に愛想が無いのである。とびきり無愛想で二度と来たくないレベルではなく、なんか悲しげなのだ。結構賑わっていて、大声で品の無い話をしている客たち、そこに入ってきた僕はひどい寝癖にヨレヨレのシャツである。そこそこお洒落な内装とおよそ釣り合わない。

 

 料理が出てくるまでやっぱり時間があるので、色々考え事をしていた。最近フランスっぽい曲を一曲くらい作りたいと思っている。どこか影のある旋律に、違和感さえ覚える程の高貴さと無表情さを兼ねそろえたアレンジ、そしてフランス語の独特の発音が合わされば素晴らしい。しかしよく考えてみると、僕はフランス語を全く話せないし、普通に日本語で異国情緒を表現できたほうが格好いいと思い、メロディやリズムやアレンジだけで迫ってみようと考えた。YouTube等でフランスの音楽をいくつか巡ってみて、メロディの乗せ方のアイデアはいくつか浮かんできたが、核心的な考えは見つからない。やっぱりクラシックからもう少しかじってみたほうがいいのかしら。

 

 そんなことを考えているうちに注文したスパゲティが出てきた。さて、その味が酷ければ僕は救われたんだろうが、なかなか絶品なのである。

「こんな料理が作れても、こんな鄙びた街に閉じ込められる運命さ・・・」

愛想のないスタッフの横顔からはそんな悲哀が感じられてしまう。

まあ、今から考え直してみれば一流の料理人はどこかそんな憂いを帯びていた方がいいのかもしれないけれど。

 

 何か煮え切らない気持ちが残り、その近くにある別のスパゲティ店に入る。「痩せなきゃ…」とか言っていたのにこの有様だ。

 

 二軒目の店はさっきの店より広いのだが、客が全くおらず、がらんとしている。さすがは郊外の料理屋である。しかしここのスタッフはうってかわって大変愛想がよいのだ。先程の一流シェフのおじさんたちと同じくらいの年齢層の女性たちである。店を経営するなら愛嬌をふりまくのも仕事のひとつではあるかもしれないが、そういった義務感が全く感じられず、心からこの仕事を楽しんでいる風であった。そんなこと僕が勝手に思っただけだし、皆それぞれ事情はあるだろうけれども、いつでもニコニコ楽しそうにしていられる人は本当に天才だと思った。僕との関係性の如何に関わらず、そういう人が幾度となく現れては去っていくのを無表情で見送ってきた。暖かさと虚しさと妬みと・・・。そんな場面に合うような曲を書いてみたいものさ。

 

 そしてフランス料理のマナーよろしく、フォークとそしてスプーンを丁寧に揃えてその店を出るのである。

(注)スパゲティはイタリア料理です。